夏の虹ゼリー

夏の虹ゼリー

海と、山と、虹ゼリー。こどもに帰る、夏休み。

猛暑の東京を抜け出し、約1ヶ月。伊豆の家での田舎暮らし。まいにち土地のものを食べ、自然の中で過ごした。庭のブルーベリーは、いつでも食べ放題。

こどもの頃から、夏休みの間は伊豆のおばあちゃんの家で長く過ごす。1年のうち何よりも楽しみな季節。おばあちゃんが亡くなってから10年以上経つ今も、空き家の手入れをしながら季節ごとに、家族で過ごす。

7月の西伊豆の海はこんなにも透明。海ではひたすら子どもに帰って、泳ぐ、泳ぐ、遊ぶ。

浮き輪もつけずに、娘と一緒に沖までクロール。ゴーグルごしの水色の世界。バタ足する娘のお尻、キラキラの水しぶき。私が一番好きな光景は、夏の海にある。年甲斐もなく本気で泳いで、日焼けもしちゃう。 周りを見てもそんな風に泳いでる大人は少ないし、伊豆育ちの親戚にも笑われる。ちょっと変な都会人。泳ぐのが好きなのはもちろんだけど、本当の理由は、お腹をペコペコに空かせたいから。

泳いだ後は、海の目の前のじょおれのパスタを食べるのがお決まり。

MY BEST シーフードパスタ。実は、シェフは私のおじさん、子どもの頃からずっと食べ続けている味。大人になって、いろんなものを食べ、それなりに舌がこえて再び食べてみても、このパスタはやっぱりおいしかった。世界中ここでしか食べられない、他のお店のどのパスタにも似ていない味。そうゆう料理を作り続ける叔父を、密かに尊敬してる。ナポリタンもすごく美味しい。夫の大好物。


甘いものが食べたくなったら、ケーキ屋さんへ。選択肢は少ないけれど、田舎のケーキ屋さんはどこのお店も誠実で、丁寧な味がする。店内も広くて、居心地が良くて、店員さんは温かい。その上安くて。都心では味わえないおいしさに、うっとり。

下田のケセラセラのシュークリーム、おいしかったな。

松崎でいちばんお気に入りのケーキ屋さんは、ルグッテ。週末だけ開く、小さなカフェ。ショートケーキがメインの昔ながらのケーキショップが多い中、ルグッテだけは一味違うジャンル。

プリン、カヌレが自慢のベイクショップで、このスイーツセットは、ドリンク付きで600円もしなかったかな?他にも週替わりのケーキ、レモンケーキ、台湾カステラなど、どれも優しい味。いつかキャロットケーキを焼いてくれないかなと密かに願っている。

遊んだ帰り道には、峠に寄って、湧き水を汲む。家の目の前を流れる清流の源泉。冷たくて、おいしい。昔はここで鰻が獲れたと母が言うけれど本当かな?ここのお水でお米を炊く、田舎ならではの贅沢。

お米も、野菜も、魚も、ぜんぶこのへんで採れたものを食べるだけ。素材を見たら自然と答えが出る。毎日の献立に悩まない。

見た目も、味も、育った畑で全然違うナス。だから、まいにち食べていても飽きない。そこに、いろいろなレシピを掛け合わせたら、食べ方は無限大。たっぷりの食材に囲まれて、娘と台所でいろんなメニューを試作した。

そして今年ハマったのが、ところてんづくり。

小学生最後の夏休みの自由研究、ところてんをテーマに決めた娘。今までの5年間は自由研究に手を貸しすぎず、見守る姿勢でいたけれど、気づいたら私も一緒に本気になっていた。天草を煮出しては、いろんな味をつけて。地元のおばあちゃんにインタビューをしたり、従姉妹に直伝のレシピを習ったり。松崎の図書館でも天草の歴史を調べた。(そんな専門書があることにびっくり。)レシピを繋いでいくことの意味を紐解きながら、ところてんのことを考え続けた。

東京に帰っても、ところてん。新物の天草を煮出して、虹色のところてんを作った。

かき氷のシロップを使って、一段づつ固めて、重ねて、を繰り返す。面倒な工程だけど、どんな風に仕上がるんだろう?と、わくわくしながら作った。1色重ねるごとに、娘二人は歓喜の声をあげ、喜んだ。半日かけてやっと完成。

心に思い描いた虹色のゼリーが、本物になった。光を反射する虹色の透明な物体。それは想像よりもっと素敵なものだった。まるでこの夏のときめきを閉じ込めたみたい。これが、海藻でできているなんて。自然の魔法でできた、虹色のところてん。

キラキラの虹を食べる。天草の香りがしっかり香る。わたあめの雲を浮かべてみる。シュワっと甘く溶ける雲。おとぎの国の食べ物みたい。子どもたちと、はしゃぎながら味わう、スペシャルなところてんが、この夏を締めくくる。

自然に囲まれてインプットしたたくさんの色。海の色。山の色。空の色。野菜の色。花の色。どの色も、鮮やかで微細なグラデーションを含んでる。日ごと、時間ごとにめくるめく変化する自然の美しい色彩。「この夏に見つけた色ぜんぶ、自分のハートの中にあるカラーパレットに追加しなくちゃね。」そんな、ちょっと説教くさい私の言葉にも、まっすぐ耳を傾けてくれる娘。この子の隣にいるおかげで、私は子どもの心を失わずにいられるし、いつまでも自然が美しくあるよう心から願う。元来、不真面目でミーハーな都会っ子だったのに。教えているようで、教わっているのかも。未来が絶望的にグレーでも、世界を虹色に塗り替えられる想像力よ、育て。いつまでも退屈知らずの子どものままで。urara

 

 

 

 

 

 


 

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